2010年9月18日に発売された「ブラックホワイト」。これはそもそもポケモンとして新たな一歩を踏み出した作品でした。当時、小中高…と大人になるにつれてポケモンから離れていく人は多く、それは、制作側としての課題でした。そこで、この「ブラックホワイト」では、主人公の身長を今までより高く設定したり、漢字表記を使ったりと、少し年代層が上の人たちに向けて作られたものになっています。それに伴い、今作はストーリーが細かく設定され、哲学的、思想的な世界線となっています。大人向けってことですね。では本題です。
第五世代、「ブラックホワイト」。今作品のイッシュ地方のモチーフはアメリカ合衆国、NY南部です。このイッシュ地方には、「イッシュ建国神話」というものがあります。モチーフはローマ建国神話のようです。ローマをつくったのは「ロムルス」と「レムルス」という双子でした。(イッシュをつくったのは「ゼクロム」と「レシラム」。文字ってますね)しかし、この双子は、次第に意見が分かれ、対立していくことになります。イッシュ建国神話を見ていきましょう。伝説のポケモンであるゼクロムとレシラム(当時は一匹でした)は国をつくろうとしましたが、真実を求めるレシラムと、理想を求めるゼクロムはしだいに対立。イッシュを焼き尽くし、去って行ってしまうことになります。ここで重要なのは「0」。彼らは0からイッシュをつくり、0に戻してしまいました。レシラム、ゼクロムには0という文字が隠れてもいます。
ところで、今作のテーマには「多様性」と「宗教」の2つがあります。まずは「多様性」から見ていきましょう。
イッシュ地方には、多種多様な人種のキャラクター、和・中・洋を表す御三家のポケモン…。まさにそのテーマの通りになっています。そして、イッシュという名前の由来は、多種多様が集まってすべてがイッシュ類に見える、自然と人間の共存からある意味イッシュ類になる、そしてイッシュの伝説のポケモン・レシラムとゼクロムがもともとイッシュ類のポケモンだった、というところらへんから来ているといわれています。また、今作ではしばしば「思想の対立」が見られます。これも、多様な考え方というところからきているといえそうです。
次に宗教です。今までのポケモンシリーズは、人とポケモンが共に暮らす世界を描いてきました。これは日本の神道にもとづいており、自然と神は一体であるという考え方でした。神、精霊であるポケモンが人と暮らす世界です(特にシンオウ神話にはそれが色濃く出ています)。しかし。イッシュ地方にはプラズマ団という組織があり、彼らはポケモン解放論を唱えました。ポケモンと人とはもとは全く違うもので、それぞれを切り離すことがポケモンの幸せにつながるといったものです。これは、キリスト教の考えに基づいています。神と人は全く違うものだから一つにはなれない…と。聖書の一節にも、人と神は分離しているとあります(私たちが神を求めることによってふたたび繋がることができるんですけどね)。が。プラズマ団を率いるゲーチスは、ポケモンは人と違う世界で暮らすことによって幸せになれるとかなんとかいっておいて実際は人が手放したポケモンを独占して自分たちの勢力にし、世界を支配しようとしていました。そのために彼はポケモンと育ち、ポケモンの言葉がわかるN(エヌ)ことナチュラル・ハルモニア・グロピウス(意味は自然数・中立など)をプラズマ団の王として迎え、ポケモン解放論をともに唱えました。しかし、N自身はそれが建前にすぎないことを知らされていませんでした。こうして、ゲーチス含む上層部(ゲーチス派)とN含むポケモン解放論を純粋に信じるものたち(宗教思想派、N派)も、しだいに対立していきます。これ、カトリックとプロテスタントを表しています。簡単にまとめるとプラズマ団はキリスト教で、ゲーチス派(悪いほう)とN派に分かれたのがカトリックとプロテスタントに分かれたみたいな感じです。で、今ポケモン解放論なんですけれどもこれが今作のタイトル「ブラックホワイト」につながってきます。「この世界はポケモンと人が混ざり合う灰色の世界だ。だから白黒はっきりさせよう」ということですね。ゼクロム、レシラムの名前、体色にもなっています。ではここからは、いくつものキリスト教要素を紹介していきます。まず、Nですが、イエス・キリストがモチーフです。ユダヤの王とプラズマ団の王、神の言葉を伝えるものとポケモンの言葉をしゃべれるもの…対応してますね。また、プラズマ団上層部の七賢人は十二使徒、ゲーチスはイスカリオテのユダがモチーフとされています(ちなみに、ゲーチスの名前は不協和音の音階ソとド♯のドイツ語表記、「G(ゲー)」+「Cis(チス)」です)。また、チャンピオンである「アイリス」は花の名前ですが、その花言葉は「聖母の悲しみ」。キリスト教では「聖母マリアの花」とされています。そして最後に、ゼクロムとレシラムの専用技「クロスサンダー」と「クロスフレイム」。クロスとは…もちろん十字架のことですね。
それでは最後にキュレム(もう一匹の伝説ポケモン)についてお話します。キュレムにも「0」は入っていて、名前の由来は虚無からきています。このポケモンはレシラムとゼクロムが一匹だったときの殻みたいなもので、レシラムとゼクロムがいなくなった今、あまりもの、抜け殻として存在。理想と現実が混在する灰色の世界を求めている、なんとも設定が地味な伝説ポケモンです。
以上がイッシュの深いなんかでした。
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